乗鞍応援〜サイクリングとは言えない過酷さ

朝7時にりんさんに迎えにきてもらい乗鞍へ。今年は初めての応援参加というか抽選にはずれたので気が楽ではある。なにより現地についても”受付しなくていい”。レースに出るというとレースをスタートしてからレースの内容を良くしようと頑張ることがメインと思われがちだが、実際のところレースというのはスタートした時点で8割がた終わったようなものだ。決められた時間までに受付して、装備を忘れることもなく、宿に泊まると明日までの行動はすべてレーススタートから逆算して組み立てられる(それが比較的ゆるいものであっても。)。そもそもスタートラインにたってから頑張っても遅い。レースの前3ヶ月、1年、3年の練習の成果をそこで出すべきものなのだ。

だから今回そういうもろもろの緊張なしにただ無心で乗鞍の峠道と向き合えたことは非常に新鮮だった。実際レースでなくても速く走ることも遅く走ることも、自分の中の一定の基準からは不可能なのだ。というわけでニュートラルに頂上の峠2702mをめざしペダルを踏みつけていた。

が、今回はもう一つ”レースではない”ことによるサプライズがあって、それがヒグマとの接近遭遇だったのだ。頂上直下のだいたい標高2600m付近で急坂を登るとそこに黒い固まりがあった。それはゆっくりと道を横切り草むらへと消えていった、のだが、どう見てもそれはヒグマと呼ばれる凶暴生物のものだった。もともと止まりそうなスピード走っていたからとりあえず止まった。が、それは何かを判断して止まったわけじゃなくて、単にフリーズしていただけなのかもしれない。とにかくクマが視界から消え、そこにいるだろう死角をしばらく見つめていた。もはやパニックになることはなかった。体力的にも気力的にも既に限界に近づいていたし追加で出るべきアドレナリンなんてもはや残ってなかったからだ。
とりあえず登ることにして登っていくとJCAの役員の人たちが下見?をしていたようだった。彼らにクマが!!と伝えると、下でもいたみたいですね、と薄い反応。もはやクマくらいでは驚くには値しないということなのだろうか。襲われたら死んじゃうんですけども。死亡フラグたってますか?

頂上へはそこから本の短い距離なのにずいぶんと長く感じた。体は全く前に進んでいかない。峠を越えるとそこは毎年のことながら宇宙だった。地上から隔絶した世界。あらゆる生き物の生存を拒む死の領域。ガードレールに寄るとまるで空に浮いているようにも思える。バスでも来れるところなのだが自転車で来るとどういうわけだかそういう風に感じるのだ。

さて登ったら降りないと行けない。今更自転車で坂を下るのに何の遠慮がいるのか、という感じだが乗鞍はひと味違う。坂の斜度もそうだし、ヘアピンの高度差も山道として一流だ。道はずいぶんよくなったのだが。今回は単独のクライムなのでウィンドブレーカーもグローブもないし震えながら下るヘアピンはかなり堪える。ようやく地上にたどりついたときにはやっぱりホット胸をなでおろしたのだった。ふぅ。

温泉に入って、おいしい食事を食べて、ビールとワインをのんでお休み。

でもなんでだろう、不思議な充実感がある。サイクリングというには過酷すぎるがただの温泉旅行にはないものを、確かに得ることができたのだ。

こういうのも、悪くない。